インドは遅れてやって来る──忘れた頃に蘇る旅の記憶

バラナシの路地

インドはじんわりと後から遅れてやって来る。

日本に戻り相変わらずの忙しい毎日を過ごす。

インドのことはもうすっかり忘れかけていたはず。

けれどそれは突然やって来る。

フラッシュバックのように。

街の喧騒とクラクションが。

インドの色が。

匂いが。

強い日差しが。

意表を突いて蘇る。

例えば仕事中に面倒な電話に区切りをつけ受話器を置いた瞬間とか。

例えば無菌室の様に清潔で静かなコンビニエンスストアで買い物をしている最中とか。

一瞬あのやかましいクラクションの音がアタマの中に鳴り響く。

狭い路地ですれ違う色とりどりのサリーが目の前をよぎる。

そんな時自分は本当にインドに居たのだろうか?

本当にインドはそこにあったのだろうか?

そんな風に味気ない日本の日常の中で考えてしまう。

確かにインドの大地に立っていたはずなのに。

どこか現実感はなく夢の中にいたような曖昧な記憶として残る。

その奇妙な感覚は初めてインドを訪れた時から変わらない。

今となっては写真を撮った理由も。

なぜこの路地に自分が立っていたのかも曖昧だ。

全てが遠い夢の中。

水の中にいたような気分。

再びこの場所に立つことは二度と無いかもしれない。

インドは遅れてやって来る。

忘れた頃にふと蘇りまた何かを考えさせるのだ。

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