リキシャマン
「リキシャマン」──インドでは「リキシャワーラー」とも呼ばれる彼ら。
インドでの仕入れ旅で、最も頻繁に利用する乗り物が、このリキシャだ。
街中を縦横無尽に走るオートリキシャは、ビービーと耳をつんざくようなクラクションを鳴らし、車や人の間をすり抜ける。
一方、昔ながらの三輪自転車のリキシャは、ゆっくりと、しかし確かな力を込めて道を進む。
どこの街でも、彼らの姿は変わらない。
乗るたびに繰り返される運賃交渉は骨が折れるが、事前に地元の人から相場を聞いておけば、不当な値段を吹っかけられる心配もない。
値段が決まり、互いに頷いてから乗り込むのが、ささやかな儀式のようになっている。
座席に腰を下ろすと、視線がほんの数十センチ高くなる。
それだけで、街の景色はまるで別物のように見える。
雑踏の中を、埃っぽいインドの風が肌を撫でていく。
一枚の写真

ふと視線を落とすと、粗末な服をまとったリキシャマンの背中がある。
ペダルを踏み出すその瞬間、全身の筋肉を総動員するような力強さが宿る。
弓なりにしなった背中には、長い年月の過酷な生活が刻んだ影が深く落ちていた。
舞い上がる砂埃と排気ガスの中、ガタつく道路を縫うように進む。
時には通行人と怒鳴り合いながら、それでも前へ。
この日は、距離にしてわずか3キロ。
40分かけて宿の前に辿り着くころ、老人の額には玉のような汗が光っていた。
その報酬は20ルピー──日本円にして約35円。
それが、彼にとっての一日の糧となる。
何のために生きているのか。
何を楽しみに日々を送っているのか。
そんな問いは、この国ではきっと無意味だ。
ただ、今日も彼はペダルを踏み続ける。
初めてインドに足を踏み入れた時の印象は強烈だった。空港を出た瞬間、街のカオスに飲み込まれ、目の前に広がる人々のパワーに圧倒されて、手も足も出ない自分を感じた。当時はネットもスマホもなく、頼れるのは自分の勘だけ。風向きや人の流[…]