インドで出会ったネパール人―天涯孤独の男との20年以上続く友情とチャイの時間

初めてインドに足を踏み入れた時の印象は強烈だった。

空港を出た瞬間、街のカオスに飲み込まれ、目の前に広がる人々のパワーに圧倒されて、手も足も出ない自分を感じた。

当時はネットもスマホもなく、頼れるのは自分の勘だけ。風向きや人の流れを肌で感じながら、街を歩いた。

写真は、そんなインドで路地裏に迷い込み偶然見つけたカーゴ屋で撮ったものだ。

この事務所には、インド中から集められた荷物が集まり、すべて日本へ向けて発送される。

そこには、1人のネパール人の男がいた。

テキパキと荷物を捌き、誇りを持って仕事をする姿が印象的で、ボクは彼が大好きだ。

ある午後、チャイを飲みながら、男と雑談をした。

特に構えるわけではなく、時間があったので椅子に座り、自然に会話が始まった。

「ところで、なんでここで働いているんだい?」

男は語り始める。

 

「オレは3歳くらいの時、母親と一緒にネパールからデリーに買い物に来たんだ。祭りの時期だったかな。そしてはぐれてしまった。」

当時のことは、本人も覚えている限り慎重に、ゆっくりと話す。

「この人混みの中、母親もオレを見つけられなかった。小さかったから住所も覚えていないし、路頭に迷いそうになったところを、ここのボスに拾ってもらったんだ。」

その後も母親と会うことはなかったが、仕事があり、食べるものもあり、寝る場所もある。

「今は十分満足でハッピーだ」と笑顔でチャイを啜る。

 

インドのカーゴ屋で働く奇妙な運命のネパール人のオトコ

インドでは、こうした人生を背負った人々に出会うことが少なくない。

ボクはただ、「いいボスに拾ってもらえてラッキーだったな」と応じた。

男は窓の外に視線を外し、少し寂しそうに笑った。

今でもインドに行くと、必ずこのカーゴ屋に顔を出す。

「よう!ガネーシャ!!いつ来たんだ?元気そうだな!」

20年変わらず迎えてくれる笑顔がそこにはある。

またこの男と、のんびりチャイを飲める日が来ることを願いつつも、「また会える」という保証はどこにもない。

それを一番よく知っているのは、彼自身なのだ。

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